ホームページ6周年特別企画エッセイ

『みんなでクリックして幸せになればいいじゃない』の巻き
作者・乙一


 どうも、安達(オツイチ)です。職業は作家です。小説を書いたり書かなかったりして食いつないでいます。2006年4月23日
現在、27歳です。作家人生約10年が経過しました。このホームページは少し前に6周年を迎えたそうです。けっこう長く続いてる
なと思います。自分もホームページも。すぐ消えると思ったのですがね。
 それにしても、ホームページの管理人であるMAJIさんから原稿依頼を受けるのはしばらくぶりなのでかなりなつかしいです。大
学に在籍していたころ、僕はSF研究会(現・AGC)というサークルに入っておりまして、そこはテーブルトークRPGという特殊
なゲームのサークルだったわけですが、大学ではけっこう煙たがられているサークルで、いったいあの集団は何をやっているのかちっ
ともわからんし不気味だし危険だし不潔でくさいしと白い目を向けられていました。個人的にはテーブルトークRPGは小説執筆の練
習になるような気がしますし大塚先生もそのようなことを書かれていたので不潔でくさくてもやさしく見守っていただきたいところで
す。
 SF研究会では毎月小冊子を発行しており、MAJIさんは部員たちから原稿のとりたてをして、僕はしかたなく映画の感想文など
を書いておったのです。大学を卒業してからはもう僕は金の亡者になって葉巻をふかせたりベンツを乗り回したりしていたので、ギャ
ラの出ないサークルの原稿依頼などは門前払いで塩をふって追い払っていたわけです。
 しかし先日、「6周年記念に原稿を書いてください映画をおごるので」とMAJIさんに言われたのでした。

MAJI「アフェリエイトでお金が入ったのです。そのお金で某作家に映画を見せて原稿を書いてもらってさらにアフェリエイトしよ
うと思うのです」

 聞いた話によると、彼のホームページにベタベタ貼ってある本の広告をクリックして購入すると、いくらかのお金がふところに入っ
てくるらしいのです。なんとうまいシステムでしょう。MAJIさんはもうかったお金で僕に映画を見せてくれるらしい。そしてあの
サークル小冊子のときのように映画の感想文を書けというつもりらしい。その話のった。

 一週間前の4月16日。我々は渋谷にて合流しました。
 見る映画は僕の希望で『ヒストリー・オブ・バイオレンス』に決定。みんながまってたクローネンバーグ監督の最新作です。クロー
ネンバーグ監督といえば例のあのほらお腹から拳銃を出すやつとか蝿になったりするやつとか未来を透視できる男の映画とか撮ってる
人ですよ。我々は監督だけで映画を選んであらすじもなんにも知らずに劇場へむかいました。その途中、我々はやっぱり『立喰師列伝』
の話をしました。『立喰師列伝』と言えば押井守監督の最新作。実は僕も数秒間だけエキストラとして登場しております。MAJIさ
んは押井監督のファンでして、この映画の話題をしないはずがないのです。そういえば大学時代に僕が『紅い眼鏡』や『天使のたまご』
(いずれも押井監督作)を見たのはMAJIさんが僕やサークル仲間を部屋に閉じ込めてビデオを再生しはじめたのがきっかけであり
ます。まさかあのときは自分が押井監督作品にエキストラ参加するなど想像しておらず人生はまったくもって奇妙です。そんな『立喰
師列伝』をMAJIさんは、ホームページ掲示板常連五名ほどとあつまって一緒に見たらしいのです。

オツイチ「へえ、そんなオフ会してたんですね。それ、いつのことです?」
MAJI「昨日、渋谷で集まって見に行きました」
オツイチ「僕は一昨日、渋谷で見ましたよ。一日ずれていたら、みんなに会ってたかもしれませんね。あぶないあぶない」

 僕は胸を撫で下ろしました。自分の読者の集団に発見されるなんて恥ずかしい思いをするなら、ゲーム『MOTHER3』の主人公の好物
を「もつなべ」に設定して後悔していることを世間に暴露されたほうがまだましでしょう。それにしてもここでいきなり『MOTHER3』
の名前を出したのは、ことわっておきますけど、アフェリエイトしてもうかりたいというわけではありませんよ。でもうっかりそのへ
んにある画像にカーソルをあわせてクリックしてつい買ってしまう人なんていませんかね。いませんね。
 それはともかく『立喰師列伝』は本当にすばらしい映画なのでみんなぜひ見てください。僕はちょうど昨年から民族紛争とか宗教と
かに興味を持ち始めて『ディズニーランドという聖地』という本などを読んでGHQのことやらを考えていたので観覧車のあたりのシー
ンなど胸にぐいぐい迫ってきましたよ。

ユーロスペース入口
 そんなこんなで我々は劇場にたどり着いて『ヒストリー・オブ・バイオレンス』を見ることができました。チケット代はMAJIさ
んが払ってくださいましたよ。このホームページのリンクで本などを購入してくださった方々のお金の一端が映画チケットと交換され
たのでした。まったく奇妙な感じでした。お金をはらわずに映画を見たのは田中麗奈さん主演映画『暗いところで待ち合わせ』の試写
会以来ですよ。今年の秋とか冬とかに公開らしいですよ。あれはまったくもってすばらしい映画なのでみなさんぜひ行ったほうがいい
ですよ。みんなで映画を見て波及効果で本が売れたら僕はその印税で葉巻とベンツですよ。
 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は僕の心のつぼをぐいぐいと押した映画でした。ネタバレしない方向で書きます。奥さんがチ
アガール姿でせまってくるあたりはいったいどうなるのだろうかとハラハラして手に汗を握りました。あれはあの映画でもっとも心拍
数の上昇するシーンでしたね。主人公のパワーが発動してバシバシと敵をやっつけるあたりの格好良さはすばらしかったです。序盤に
登場する悪役の冷酷非道さといったら、血の凍る恐ろしさでした。顔の皮がはがれてるシーンなどを見て「監督!」と少しうれしくな
りましたよ。映画にこめられた深いテーマ性やメッセージについても、作家である僕はたいへんに感銘を受けたので書いておきたいと
ころですが、ネタバレしてはいけないので秘密にしておきます。実に惜しい。お馬鹿なことしか書いてはいけないなんて、実に惜しい。
映画にこめられた深いテーマ性やメッセージについての知的な考察が、作家の僕には本当は書けるのに、書いてはいけないなんて実に
惜しい。
 奥さんのチアガール姿がネタバレだったらどうしよう、などと思いつつ、こういう感想文でもかまわないですかね6周年企画として。
映画の感想、一瞬で終わってしまいましたよ。前ふりが長いくせに。心配なので映画以外のことをもう少し書いておきましょうか。

 近況報告になりますが、もうすぐ講談社から『銃とチョコレート』という本が出版されます。僕が執筆させていただいた小説です。
ミステリランドという少年少女にむけたすばらしい作りのシリーズがありまして、有名な作家さんが大勢参加して執筆されているので
すが、なんとその中に僕もまぜていただけることになったのです。しかしお声をかけていただいたのが約三年ほど前で、そのころの僕
は「締め切りはまだずっと先だな、そのころにはJOJOのノベライズも終わってるだろうし、仕事ひきうけてもきっと大丈夫だろう
な」などと考えていたのですがちっともノベライズは終わってなくて不思議ですスタンド攻撃でしょうか本当にごめんなさい。という
わけで『銃とチョコレート』を買ってくださるとありがたいです。マウスを動かして矢印を画像にあわせてカチリですよ。
 ところでこれがどんな小説なのかというと、名探偵とか怪盗とかいる世界で少年が冒険する話を書きたいなというのが最初の第一歩
なのでした。殺人事件を推理で解明する話ではないので本格ミステリファンにはおもしろくないかもしれません。それから叙述トリッ
クやせつなさなどはまったくありませんのでみなさん安心して読んでください。挿絵は映画『イノセンス』の背景を描いていた平田さ
んという方です。「子供の心に深いトラウマができるような挿絵をえがいてください」とお願いしたところ本当に恐ろしくて不気味な
挿絵が完成してうれしかったです。
 そういえば『銃とチョコレート』は僕の好きだったライトノベルの要素を注入してみました。僕は昔、冴木忍先生の本が大好きで、
『メルヴィ&カシム』シリーズみたいな師匠と弟子の関係で珍道中するやつをやってみたかったのです。『オーフェン』とか『スレイ
ヤーズ』みたいな感じのやつです。僕が読んだライトノベルのほとんどはパーティを組んで旅する話だったのに、これまで自分で書い
てないのはなんででしょうね。今回すこしだけそういうのが書けてうれしかったですよ。

 本谷有希子さんの芝居の原案などをやりました。『密室彼女』という名前で公演するそうです。五月はじめくらいにやるらしいです
よ。本谷さんと対談をやりまして、その原稿が『STUDIO VOICE』という雑誌に掲載されるそうです。練習風景を見学に行って、その
とき撮影した写真が載るらしいのですが、髪の毛がみじかくて意外とはずかしいですよ。

 集英社から『ZOO』が、角川書店から『失はれる物語』が文庫になって出版されるそうです。『失はれる物語』の文庫化であとが
きを依頼されたのですが、書くことが本当になにもなくてうっかりショート小説を書いてしまいました。ページ数が限られた中で小説
を書くというのはスリリングでおもしろいですね。

 6月ごろに『とるこ日記』のメンバーで集まって温泉に行くらしいですよ。そういえばあの本のカバーですごろくをした人が本当に
いたらしくて驚きました。
 僕の原作の漫画が角川や集英社の雑誌に掲載されているみたいです。そういえば昨年、古屋兎丸先生とファミレスでだらだら考えた
漫画が集英社の文芸誌に掲載されていますよ。
 私生活での変化と言えば今年末くらいに結婚を予定していることぐらいでしょうか。でもこのことをエッセイにおもしろおかしく書
いてしまうのはどうかと思うので今回は何も書かないでおくことにしましょう。そういえばこの前、ネット掲示板をつかったゲーム
『人狼』のログを4〜5時間ほどぶっ続けで読んでいたら婚約者に「なんか不気味」と嫌がられましたよ。家族からは「これが最初で
最後のチャンスなんだぞ」と念を押されておりますので、僕はすばやくコンピューターの前をはなれて真人間っぽくふるまいましたよ。
 そうだ、すっかり忘れてました。友人知人らと作った自主映画がもうじき完成しそうです。上映の予定はないのですが、パソコンで
DVDを焼いて売るというのはどうだろうか、と考えております。自分たちでブックレットなどを書いてですね、パソコンで焼いて、
本谷さんの芝居の物販コーナーに置いてもらうわけですよ。本谷さんの芝居のDVDを買おうとした客が、間違えて変な自主映画DV
Dを買っていくわけです。それはいいアイデアだ、と思って本谷さんたちの許可も得られたのですが、芝居本番までには完成しなさそ
うなので今回はあきらめました。でもそのうち動きがありましたらこのホームページで告知をやるのでそのときはぜひよろしくお願い
します。

 ひとまずこんなところでしょうか。
 ほかにもいろいろと出版業界の外側で活動していることがあるのですけど、ここには書けません。
 最後まで読んでくださってありがとうございました。
 書きなぐったようなよみづらい文章で申し訳ないです。

   END    2006/04/23

*チケットをかかげる乙一氏。携帯カメラのピンボケぶりにデジカメ購入を強く決意。
チケットをかかげる乙一氏

*自主制作映画の1場面。これから徐々に明らかになるようだ。
自主制作映画の1場面

*今回のエッセイに出てきた作品や原作など